梟の島

-追想の為の記録-

天竜・二俣町(1):クローバー通りの看板建築,旅館のある街並み。

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クローバー通りの看板建築。 2021.09.11 天竜区二俣町

 


9月11日(土)。3ヶ月ぶりの出張の翌日,掛川の街を散策した後は,天浜線遠州森駅へ。駅の北東にある中心街から仲町商店街とその裏路地を撮り歩くも,北上中に突如として「降雨コールド」。バスで戸綿駅に戻って来た。

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続いて向かったのは,二俣町。市政施行で天竜市へと名を変え,現在は「浜松市天竜区二俣町二俣」である。天竜二俣駅は旧国鉄二俣線の要衝で,構内には蒸気時代の給水塔や年季の入った木造の鉄道関連施設が残されている。コロナ禍で現在は中止しているが,構内の見学会も行っているらしいので,また機会があれば訪れてみたいところである。二俣の中心街に最も近いのはその一つ西にある二俣本町駅であり,今回はこちらを利用する。

 

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いざ降り立ってみると想像以上に小さな駅で,街と林のちょうど境目に位置しているような印象だった。待合室のみがあるホームには「サルが駅に出没します」といった警告が掲示されていた。幸いにもここから先は雨に見舞われずに済みそうなので,ホームから階段を下りて駅舎を通り抜け,中心街に向けて北へと歩いてゆく。

 

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想像していたよりもすぐに中心街の南端に辿り着いた。二俣街道を渡り,南北に走る「クローバー通り商店街」に入ると,早速鄙びた佇まいの太田薬局が見えて来た。

 

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旧商店,今は住宅だろう。

 

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二俣は秋葉街道が通り,天竜川の水運で栄えた歴史ある街で,かつては旅籠も多かったようだ。二俣町遊郭というのも存在していたらしい。見えて来たのは「かどや旅館」という旅館である。少し赤線風の意匠にも見えるのだが,この場所は遊郭とは関係ないようだ。

 

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旅館の裏には雰囲気のある街並みが展開されている。

 

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手前の牛乳箱は,塗装を失ったのか。

 

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蔵の煉瓦壁は鮮やかで,持ち送りの曲線美にも目が行く。

 

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煉瓦蔵の後ろには石張りの建物。

 

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実に綺麗な並びだ。

 

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撮影しているあたりで,遠州森での雨がまるで嘘のように,澄んだ陽光が降り注いできた。

 

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現役の気配は全く感じられなかった。営業中の姿も見てみたかった。

 

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クローバー通りを北に歩くと,看板建築の並びが見えてくる。

 

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日本板硝子,飯田金物店

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緑の小さなアーケードは,カメラ趣味的に言えば無くても良いのだろう。しかしこの飾らない感じが自然な姿であり,却って魅力的といえるのかもしれない。

写真左手に見える更地の部分には,嘗ては看板建築がもう6軒ほど建ち並んでいた。看板部分に時計を戴いた愛らしい意匠の建築もあったのだが,残念ながら2014年の火事で焼失。この目で見ることが出来ないのが残念で仕方がない。

 

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番人。調べたところ,ガソリン計量器らしい。

 

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FUJIのロゴ,こうして撮影してみると良く出来ているなあと感じる。

 

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道の西側にも同じようなアーケードがあり,その後ろには商店が並ぶ。

 

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酒屋の看板建築,熟成したオーシャンウヰスキーの文字。

 

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絶妙な佇まいである。

 

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もう真昼間だが,シャッターは下りたまま。土曜日だからなのか,或いは永遠に眠っているのか。

 

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尾張屋旅館。

LED信号も随分と普及してしまった。ちっぽけな要素が一つ新しいだけで,写真全体から感じる空気というのも変わって来るものである。

 

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交差点を更に北へ。

 

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地方都市あるある,「小学館の学習雑誌」の黄色と橙色が見えて来た。

 

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フォントも意匠も素敵な大石薬局。

 

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信号の南側のアーケードを望遠で圧縮。

 

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個性豊かな建物達が,互いに両側面を触れ合いながらひしめき合うように建ち並ぶ。現代の街では考えられないこの美しさを言語化して表現するのは難しい。やはり福島の新町ビル街の記事でも少し言及したように,雑然とした要素(この場合,一軒ずつ異なる建物のファサード,特に縦線の多さが強調された意匠)が整然と並ぶ(ファサードの面を連ねている)ということになるのだろうか。そこに更に色彩的な調和が加わるのは勿論,さらには電線や看板・軒先のテントなどもプラスの要素として機能しているのだろう。街を撮るということの奥深さは計り知れない。

 

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遅れて来た夏を縦構図で切り取る。

 

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気付けばもう,すっかり青空だ。太陽は薄雲から出たり入ったりを繰り返している。

手前の妻入の建物は嘗て海老屋旅館という旅館だったらしい。かなりのタッパがあるのだが,3階建だろうか。

 

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薄紫とダスティブルーが印象的な2軒。

 

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こちらは確実な木造3階建,御宿陣屋。残念ながら廃業して久しい。

 

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夏空高し。

 

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二俣医院。大正時代の建築である。

 

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座敷蔵,アールデコ調の持ち送りが素晴らしい。

 

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昭和後期の匂いのする一角。

 

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看板部分の遊び心。アンジュルム川村文乃もびっくりの手足の長さだ。

ここまで,クローバー通り沿いには看板建築群を始めとする「レトロ」な街並みが良く残されていたが,見る者にそれなりの読解力を必要とするため,このままの状態では「一般受け」はしないのだろう。もう一工夫・二工夫することで,ある程度人を集めることが出来そうなポテンシャルを感じるが,綺麗に整備された旅館・ホテルや温泉やといったものが無いと,少し難しいのかもしれない。幸か不幸かそんな状態であるので,あまり観光化されていない,「素」の街並みが残されていて,奇天烈な趣味を持つ者としては大変有り難い限りである。

この後はクローバー通りを更に北に進み,横町,さらにその北へと歩いてみる。

 

その2に続く。

 

 

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