小浜駅前のトヨタレンタカーでパッソを借り,出発。向かうは,小浜の文化財の中では最も市街地から遠い飯盛寺(はんじょうじ)。公共交通でのアプローチは極めて困難で,しいて言うならば小浜から2駅西の加斗(かと)駅からタクシーとでもなるのだろう。重要文化財の本堂を目指し,海岸通りを走る。伝建地区の先,真珠浜の上を通ってゆく山道はなかなかな隘路だったが,幸い対向車は来ず。幹線に出て暫く進み,左折して山裾へと切り込むと,家々は疎らになり,次第に屋根勾配の急な山村集落へと変わってゆき,最後に寺の現役の本堂が現れた。
真言宗,山号は深山(しんざん)という飯盛寺。その向こうには飯盛山(こちらは「いいもりやま」と読む)が静かに聳える。一度間違えて直接本堂へと向かいそうになったが,声を掛けられて引き返し,小さな寺務所にて拝観料を払う。正式な参道の階段を上ると,五間堂が静かに我々を迎えてくれた。
1489年建立の本堂は小浜の国指定文化財では唯一,茅葺屋根を有しており,軒は比較的深く,向拝は小さくて印象が薄い。そして何といっても四方に吹放しが付くというのが興味深い。
物心の付いた頃からから吹き抜け空間に強く惹かれてきた自分にとって,吹放しもまた魅力的な要素であり,「好物」である。
内部は中世の本堂らしい,外陣・内陣・後陣の構成。外陣は虹梁が力強い。
平成10年の全解体修理で,屋根を桟瓦葺から茅葺に復し,柱の一部も取り替え,格子戸を新調するなどしていたようだ。
また一部情報によると数年前に茅を再度葺き替えたらしく,とても状態が良かったが,立地から察するに大修理の前はかなり荒廃してきていたのではないだろうか。
穏やかな表情の薬師如来坐像に旅の無事を願った頃,ようやく久々に非日常の時間を過ごしはじめていることを実感したのだった。
本堂を後にし,銀杏の実をどうにか踏まぬように避けながら三門を抜け,不動の滝へ。その道中,名もなき広場に名もなき神秘的な岩が一つ鎮座していた。
色鮮やかな紅葉を背にしたこの巨岩,これは何か神的なものなのだろうか,真相は分からなかったが,所謂「パワースポット」感の極めて強い場所であり,フォトジェニックであった。
(2019.12.22 追記:副住職さまからTwitterでご連絡頂き,この岩は「昇竜岩」という霊岩であるとご教示頂きました。飯盛山に棲む竜がこの岩を蹴上がって山に消えていったという言い伝えから来た名前ということです。運気上昇,大願成就のパワースポットということでした。)
その少し先の不動の滝は,流量こそ控え目ではあったが,水は清澄で一帯がとても心地よく,清爽な場所だった。
外部の人間の来訪が多くないからか,現本堂の前の犬が我々に向かって吠え続けていたため,「終始静かな」というと嘘にはなるが,それでも極めて静かで,雰囲気の良い山寺であった。
妙楽寺へ続く。