某年某日,某県の「Rマンション」を訪れた。
1993年に工事が頓挫し,それから20年以上,建設途中の状態で放置されている悲運の廃マンション。その威容から,「軍艦マンション」とも称される物件である。
前の記事では,アプローチしてから屋上空間に出るまでを纏めた。
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日没が徐々に近づいてくる中,再び室内空間の探索を始める。
コンクリートの青灰色は,侵略者の緑と美しく調和する。
それを狙って,生ける建築の設計が為されることも多い。
灯の骸。
ほぼ何もない空間の中で,ひときわ存在感を強く放つ椅子。
ぶらさがったペンダントライトと椅子をぼんやり見ていると,何やら首吊りのような,不気味なイメージが頭を過る。
一見すると,ミニマルな情報量で余白の大きい写真。図学的には雑誌の表紙にでもなりそうな構図なのだが,ここはそのような「オシャレ空間」ではない。
なぜ広めの構図に魅力を感じて,シャッターを切ったのか。背景となる壁が,年月を経た人間の「皺」のような表情を持っているというのは一つ大きな要素だろう。無地のキャンバスであってはこうは行かない。そしてペンダントライトの「骸」と,散らばったスポンジ,打設されたままの汚れた床といった構成要素たち。注意して見ると,この構図は,決して情報量が少ない訳ではないのだ。その美に瞬間的に気付き,絵として残すことが出来たのは,訓練の賜物でもあり,感性の為せる業でもある。
こういった要素を(自覚的・無自覚的に関わらず)見るということ,改めて丁寧に言語化しようとすること,そして次なる機会に新たなものを見ようと目を凝らすこと。いずれも,世界を拡げる為の有意義な行動である。
翳の部屋へ,吸い込まれるように歩を進める。
時間軸上で「凍結」されてしまった,生ける屍。
夕暮れの街を見下ろす残留物たち。
黒く潰れてゆく。
居室になる筈だった,がらんどうな空間。
生活者の気配を感じ,少し背筋が凍る。
何者かによってセットされた,虚構の部屋。
残留物が少ないからこそ,一つ一つの物たちが不思議に強烈な存在感を醸し出していた。
階段室は,既にとても暗かった。
その3へ続く。
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