2020年11月1日(日)。一昨日の出張調査後から続く,秋の五能線を追い求める撮影行も,いよいよ最終日の午後である。 広戸を発ち,追良瀬,驫木へと向かう列車を,塩見崎から遠望している。
さて,いよいよ列車の気配を感じられる距離まで接近してきた。
海岸線の長いストレートを往く列車に対して,可能な限りのアングルを試す。
西の空には,嵐の前兆の黒雲が垂れ込めている。
この緑が,日本海の素の色なのだろう。
左カーブを曲がった列車は,遂にこちらに向かって来た。
最初で最後の,晩秋の塩見崎。
短めのストレートを走り,最後は小さく右にカーブして,塩見崎下のトンネルへと吸い込まれていった。
岩の突端まで更に移動して,反対方向,すなわち北東側を向くと,驫木駅から風合瀬駅に向かう海岸線が見えた。この後もう一度,同じ列車の姿を拝む事ができるということだ。広戸~追良瀬,追良瀬~驫木,驫木~風合瀬,3駅間を遠望できる撮影地というのも珍しい。
暫く待っていると,驫木駅を発車した列車が姿を現した。
驫木の海岸線には陽光が降り注いでいたから,この界隈で撮影していた人は運が良かったのかもしれない。
映画調のホワイトバランス。
2両編成は酷烈な風を受けながらも,着実に歩を進めてゆく。
音も無くファインダーの中を滑る列車を撮影し,最後はトンネルに消える姿を見送った。
撮影後,少しぼうっと海を眺める。日本海は私の「恩師」のような存在。可能な限り対話をしたいのだ。
この陰鬱で枯れ果てた景色が,自分の琴線に触れる。
一般的に「海」という言葉を聞いた時,多くの人間は太平洋の様子を無意識に思い浮かべるのだろう。しかし日本海の情景というのは,もっと表情豊かで,喜怒哀楽が激しい,人間味を帯びたものである。
先程までは水平線のあたりが紺色に染まっていたが,気付けばその範囲がどんどん手前側に広がってきている。
過去の経験からすると,この後すぐに嵐になる筈だ。
しかし,嵐の直前の日本海ほど美しい海は無いと,この黒ずんだ水平線を見る度に思う。
名残惜しいが,いよいよ限界が近そうだ。
そう判断して車に戻ると,数分後,車体に当たる雨がバラバラと音を立てるほどの豪雨となった。オフロードがぬかるんでも面倒なので,早々に引き上げ,舗装区間まで戻る。田圃の中には烏の群れが見えた。100羽以上居ただろうか。雨をものともせずに何かを啄んでいた。
さて,ここに居ても仕方がないので,ひとまず驫木駅付近まで移動し,残りの行程を考えることにした。
▼関連記事はこちらから。
▼ 宜しければクリックのご協力をお願い致します。