梟の島

-追想の為の記録-

湖東三山:金剛輪寺,朱に染まる。

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鮮烈な天井画。2019.11.24 甲良・金剛輪寺

 

湖東三山その2,金剛輪寺へ。西明寺からは車で10分もかからず,あっという間の「ハシゴ」である。駐車場の規模は西明寺を更に上回るサイズで面食らう。また時間も昼に近付きつつあるため,観光バスもかなりの台数が並んで停まっている。その傍らには出店があり,酒や蒟蒻などの土産物がずらりと並んでいた。

「黒門」をくぐり境内に入ると,たちまち鮮やかな赤のモミジが頭上に掛かる。

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ここ最近整備したと見える歩道のコンクリートには,カエデの葉の柄がちらほらとあしらわれている。受付も人は多かったが,西明寺と同じく,いやそれ以上に境内のキャパシティがとんでもなく大きいため,ごみごみした感じはしない。本堂までは徒歩10~12分と書いてあり,これはシニア層に向けた所要時分かと思いきや,写真を撮ったり庭園をぐるっと大回りしたりしなくてもその程度の時間が必要で,断続的に石段の続く,想像よりも格段にハードな健脚コースであった。

 

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参道の左手にある石垣を見て,むかし砂場で遊んでいた頃(すなわち幼稚園児か),小さな石を積んで石垣を造ってみたいという強い憧れがあったことを思い出す。かなり「初期」から,自然と人工物の調和に興味があったのだろう。当時の家の近くを流れていた千川上水の護岸が大きな石によるものだったことなど,恐らくきっかけは幼少期にすぐ身近に存在したものたちだろう。そしてまた面白いのが,大人になった今,決してリアルスケールの石垣には興味がない(しかも仕事で触れられるにも拘わらず)という点である。先日,かなり大規模な仏堂を仕事で調査した際にも思ったが,やはり今も昔も,大きな物にはさほど興味がないらしい。そういったスケールによってもたらされる,所謂分かりやすいロマンなものようなものには無縁なのだ。そして小さなものであっても,フェイクになるとこれまた途端に興味を失う。プラモデルを小学校高学年で作らなくなったのは,その頃からリアルスケールに手が届き始めたからで,結局は最初から「現実世界」への憧憬が全てなのだろう。この辺りの感覚というのはなかなか他人と共有できないもので難しいのだが,同じような温度の人(それはおそらく,現実世界を愛する人)とは,かなり解り合えるのではないだろうかと期待している。

最後の長い石段を登り切ると,門の向こうにようやく本堂が姿を現した。ここも西明寺に続いて七間堂である。朱色の紅葉が一際鮮やかである。鐘楼の側にまわると,どうにか広角で全貌をファインダー内に捉えられた。

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本堂は「中世天台仏堂の代表作」として国宝指定を受けている。建立年代は南北朝時代であるとされる。西明寺や小浜の文化財群とは異なり,支輪の印象が強い。

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引きの距離があまりないので,切り取り構図を複数模索し撮影してから堂内へ入ったところ,昼前の良い時間ということもあって,なかなかの人口密度であった。特に入側柱の逞しさが目立つ。説明を聞いた後,本尊と脇仏に道中の無事を祈る。この2日間で沢山見て来た密教建築の中で唯一,厨子が垂木まで全て黒かったのが印象に残った。

 

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本堂に向かって左側の斜面をさらに少しばかり登ったところに三重塔があり,そこまでの間の紅葉が何と言っても鮮やかである。金剛輪寺の紅葉は「血染めの紅葉」と呼ばれるらしい。あいにく三重塔を遠望した際に,塔の手前に来る木が既に落葉してしまっていたのが残念であったが,三重塔付近は朱色も黄色も鮮明で,ちょうど太陽が顔を覗かせたこともあり,撮影が楽しかった。

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三重塔もまた南北朝時代の建築とされるが,近世以降は荒廃しており,1970年代に復元されて現在の姿になったというが,それでも重文指定を受けるだけの価値がある訳だ。塔はやはり斜め45度の角度で見上げると,普段は絶対に意識しないシンメトリーがはっきりと視覚化されて美しい。

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正面と側面が完全に同一であればどんな建物でも可能性はあるのだが,現実性があるのはやはり層塔で,さらに高さがあるので美しさが際立つように思う。
自分がそこそこの機材を振り回しているからか,はたまた観光客の習性なのかは分からないが,アングルを求めて動き回り,良い場所で撮影をしていると,その後にカメラの有無に関係なく必ず何人かが追従してくるのが面白い。自分も無意識で,先人のいるところに歩を進めていることもあるのだろう。

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復路は淡々と石段を降りる。すれ違う往路の人々が殆ど無口になって,疲れているのが伺えるw 特に寄り道はせず,駐車場まで戻り,出店でチーズ味のじゃり豆を購入し,金剛輪寺を後にした。

 

湖東三山・百済寺へ続く。

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