梟の島

梟の島 -叙情的叙景詩-

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五能線キハ40,最後の秋(6):驫木~追良瀬,晩秋の絶景区間をゆく。

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北溟の傍らをゆく。 20.10.30 五能線 驫木追良瀬

 


2020年10月30日(金)。10時からの現場調査の前に,五能線の「朝練」を遂行。一番列車・822Dに弘前から乗車。鶴泊~板柳で,朝の4連821Dと快速3524D,2823Dを撮影。現場調査は巻きで終了したので,急遽予定を変更し,鳴沢~鰺ケ沢の撮影地で2828Dを迎えた。

 

撮影後はすぐに車へ。101号線へと戻り,西へ向かう。撮影したばかりの2828Dを追い掛けて先回りし,驫木追良瀬間,塩見崎の南側で再び迎え撃つ計画である。鰺ケ沢やその後の各駅の停車時間を考えれば,十分に余裕を持って先行できるという訳だ。

2018年の夏の撮影では,鰺ケ沢界隈はほぼ撮影対象にしなかったので,このあたりの道にあまり見覚えはなかったが,千畳敷大戸瀬風合瀬あたりから先を走っていると,しっかりと記憶が蘇ってきた。驫木の駅に向かう道で101号から離れ,南西側から驫木の駅と線路を見るアングルの様子も確認しつつ,塩見崎南側の有名俯瞰撮影地へと向かった。最後の離合不可能な農業用道路で対向車が来てしまい,少し行き違いにてこずったが,幸い曲がり角のスペースのある場所だったので問題は無し。一度左折しそびれて,北側に向けて走り過ぎたので,100mほどバックで細い農道を戻り,防風林の縁の駐車スペースに到着。まさかとは思うがクマと鉢合わせしないよう,声を出しながら,獣道ならぬ「ヲタ道」を歩いてゆくと,1分ほどで視界が開け,壮大なスケールの断崖絶壁と日本海,その境界線に線を引く鉄路が目に飛び込んできた。既に断崖の植物は枯れているのだが,その色は冬ほど白くはない,鮮やかな褐色だった。そしてここでも,ちぎれた雲の隙間から太陽が顔を覗かせており,一面の景色を黄色く染めていた。海の色は紺に近い穏やかな青緑色で,波はやや高く,風は依然として強い。2013年の冬の撮影で,好天にもかかわらず直前に曇ってしまった事が思い出されて不安になったが,信じて待つより他にない。

足元は平らではないのだが,ビデオ用に三脚(今回は機動力優先で,初代の軽い三脚で挑んでいる)をセットし,自分は三脚から1mほど斜面を右上に登ったところに立って撮影するという形で態勢を確定。列車通過の2分前,三脚側に戻って,ビデオの録画をスタートしようと思った時だった。この斜面がぬかるんでいたせいで,激しく転倒。咄嗟に手に持ったカメラを守り,しりもちをつきながら滑った。自分のすぐ先には三脚があるので,これに触れたら三脚とカメラもろとも崖の下まで落ちてしまう…気づいた時には自分の視界には広い空と,空に向かって真っすぐ伸びる三脚,その上に付いたカメラのみが見えていた。天を仰ぎながら臍を回転軸にして180度ほど回転し,気付けば頭が断崖側に来ている。三脚の脚を咄嗟に掴むと,3本がひとまとまりになる。カメラは片持ち梁のような状態の三脚の先端についており,カメラの重量による転倒モーメントが大きく,崖下に落ちないように必死に持ちこたえる。自分の滑落の運動エネルギーは既にゼロになったことを瞬時に判断できたので,最後は三脚とカメラを必死に陸側に持ち上げながら縦向きに戻す。ほんの2~3秒の事が,コマ送りのような記憶に残っている。何とか止まった…。とんでもない所でとんでもない事になったものだ。いやはや,肝が冷えた。

さて列車通過まであと2分もない。尻と膝についた泥に構っている時間は無かった。落ち着いて三脚を立て直し,録画を開始。さらに落ち着いて立ち位置に戻り,複数のアングルの撮影の想定をして,列車を待つ。

驫木側,塩見崎のトンネルのあたりが雲に遮られ日陰になってしまったところで,ついに列車が姿を現した。

 

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大舞台に登場。

 

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不運なことに,雲の動きと列車の動きが連動してしまい,「逆スポットライト状態」で陰が薄く広がってしまった。

 

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一つ目のカーブに差し掛かる。

 

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ファインダーの中をスローモーションのように滑る,車齢40歳の古参。

 

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直線に入ったところで,幸いにして雲の流れが止まり,列車は日向の世界に飛び出してきた。

 

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北溟をゆく。

 

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空には立体的な雲が多く,波はやや高い。

 

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海も断崖も列車も,13時台の低い陽光に照らされて,不思議に鮮やかだった。

 

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あまりにも大きく,あまりにも強い自然と戦う,2連の気動車

 

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これこそが,五能線の秋模様である。

 

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列車は二つ目のカーブを曲がり,いよいよ接近してきた。

 

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波と風の音に混ざる,ディーゼルの息吹とジョイント音。列車はゆっくりと眼下の海岸線を走り抜けていった。最後は肉眼で,その姿をしかと見送った。

 

晩秋の海景とキハ40を撮影する,最初で最後の機会。ピーカンではないが,これこそが五能線の日常であり,五能線の美しさでもある。そんな瞬間を一人で独占することが出来たことが嬉しかった。

  

その7(驫木駅,嵐の夕刻)へ続く。

 

 

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