緑褐色のアーケード。 2021.06.07 宮下銀座
6月7日(月)。出張の前日,水戸の駅前を散策することにした。出張当日入りでは都内の通勤ラッシュに重なるし,特急の車内も多少の混雑が予想されるので,それを回避する意味でも前泊を選択した格好である。13時台の常磐線特急で東京を発つと,車内に客は極めて少なく,快適だった。車窓の田圃には植えられてひと月ほど経った浅い緑色の早苗が揺れていて,そんな中に時折アクセントのように褐色の麦畑が現れたりもする。この時期に晴天の北関東を旅した記憶がないので,見慣れた車窓なのだがいつになく新鮮な感覚だった。水戸に到着すると,芒種を過ぎて夏至を迎えようという時期なだけあり,15時前なのに随分と高い角度から太陽光が照り付けて来た。
水戸駅は北口側が街の中心。南口側には主に住宅街が広がっている。もちろん北口側に出て,バスターミナルを横目に,西へと歩く。駅から徒歩数分の場所に位置する「宮下銀座」のアーケード商店街が,この日の第一の目的地である。
駅前には,昭和の香りの漂う建物がゴロゴロと点在している。
東照宮の鳥居を潜ると,3階建の古びた建物と背の高いアーケード商店街の入口が見えて来る。
そのさらに西には,蔦に呑み込まれた建物。6月にもなれば,この類の建物の全貌は緑に包まれて見えなくなってしまう。
さて,宮下銀座と正対する。想像していたよりも一回り大きい印象だ。
こちら側から向こう側へ,商店街は緩やかな上り坂である。
薄い緑と褐色が基調。さて,踏み入れよう。
青空を透かす屋根。
看板こそ新しいが,躯体からはなかなかの年季が感じられる。
宮町二丁目。太陽が顔を出したり曇ったり,そのたびに空間のホワイトバランスも急変する。
事業用の軽自動車が通過してゆくと,浮いてしまったタイルがその車輪に踏まれ,カッタカッタカッタ…と,少し不安になるほどけたたましい音を立てていた。
中望遠で圧縮しても良い。
広角で引いても良い。アーケード商店街は,被写体として極めて優秀だと思う。何度でも繰り返すが,筆者の大好物である。
さて,緩やかなカーブの向こう側が少しずつ見えて来た。
道幅は想像以上に狭く,建物の背が想像以上に高いので,正対するのはこの程度が限界だった。
緑のルーバーに,赤褐色のフレーム。
向き合って,何十年の仲。
刹那の日光浴。
狭間は決まって美しい。
反対側の狭間には,朽ちつつある装テンの姿が。
「夜の虫」,良いネーミングである。
広角レンズで捉えた全貌。
標準レンズで捉えた空気感。
午後の光が,次第に白から黄色に変わり,柔らかくなってゆく。
寿司屋のある街。歩行者の姿は殆ど見えない。
プロポーションが縦長なので,つい縦構図の写真を量産してしまうが,横構図もばっちりサマになってくれる。被写体としての中毒性が極めて高い。
客引き代わりの看板。
2・3階の部分のみを切り取ってみても面白い。
望遠端で,猥雑さをぎゅっと圧縮してみる。
そしてここから北に振り返れば,アーケードは途切れ,3階建の建物が陽の光に曝されている。
嘗てはこの辺りもアーケードが掛かっていたらしいが,その痕跡は見当たらない。ルーバーの意匠はアーケード内と共通である。
振り返る。右側の斜面は東照宮に上る道である。
宮下銀座の名前は,ここに大きく掲げられていた。緑と黄がイメージカラーなのだろう。
アーケードが存在していた時代には,右手前にも店舗が存在していたということだろうか。現在は広い駐車場となっており,商店街としては少々間延びしてしまった格好である。
嘗ては撮ることの出来なかったであろう視点から,圧縮効果を使って切り取る。3層の建物が建ち並ぶと,それだけで強さ,迫力が感じられる。
アーケードの横の坂を登ると東照宮に辿り着くのだが,この坂の途中からの眺めもまた面白いようだ。
2階相当の高さから振り返る。ルーバーが圧縮され,緑色の錆びた一枚壁のようだ。
そしてアーケード商店街の「裏の顔」が見えてくる。どうしてそこまで細いのか,と尋ねたくなるようなスレンダーな扉が,2・3階に存在している。
一応は扉の外に出られるので,トマソンとしては不完全,ということになるのだろうか。いずれにせよ現役で使われている気配は感じられない。画角左側の階段も良い味を醸し出している。
南側を向けば,2階建ての住宅のような風貌。これが2・3階で,1階に店舗が入っているとは思えないような,「裏」の佇まいである。
アーケードはいつでもどこでも面白い。
最後に1枚,望遠でバシッと決めて終わる。
水戸はこれまで何度も訪れているのだが,これだけ面白い場所が駅から徒歩数分の場所にあるとは,恥ずかしながら知らなかった。やはり北関東,侮るなかれ。
さて,その2では,宮下銀座のすぐ西に位置する,嘗ての花街,旧奈良屋町を散策する。
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