その11より。
羽越本線のこの区間は,特に日中は鈍行列車の本数がかなり少ない。午後の列車まで少し時間があるので,折角だから笹川流れの海岸を歩こう。この区間の景色は何回眺めたか分からない。もはや岩の配置まではっきりと記憶している程である。
波打ち際に巨岩が転がっているだけで不思議だというのに,冬の海は空を映して異様に明るく,さらに南からの淡い陽光が岩を橙色に染めはじめたので,あたりは未だ嘗て見たこともないような色調となり,まるで合成写真を見ているかのようだった。
自分の視覚に違和感を覚える瞬間というのは,稀であり,とても面白いものである。その違和感に忠実に撮影する。
空の明るさとは対照的な,岩に砕ける波濤の激しさ。
その砕ける一瞬を撮った後,砂浜を暫く歩いてみる。
空は明るく,海もはっきりとした色を呈しているが,雲は強風に煽られて不思議な立体感をもって浮かんでいる。しかし遠い粟島の輪郭ははっきりとしており,絶妙なちぐはぐさである。日本海はいつも表情豊かである。今回こうしてまた新たな表情を知る事が出来て,とても嬉しく思う。
こうして,1月にしては暖かい砂浜で,少しばかりゆっくりとした時間を過ごしたのだった。
1時間ぶりに車のもとに戻り,乗り込もうとすると,軽トラックが一台,今川側から対向車線を跨いで我々の居る駐車帯に停車した。窓を開けてこちらに話しかけてくるので何だろうと思ったら,なんと昨晩,越後寒川駅で831Dの撮影をご一緒した地元のおじさんだった。そういえば確かに,昨日見たトラックだ。今日も1日撮影に動き回っていることを伝える。去り際に「Facebookをやっているか?」と尋ねられたので,Twitterで繋がった。もしかしたらこの後の撮影の最中,またどこかで会うこともあるのかもしれない,などと思いつつ,我々は345号線を南へ,おじさんは北へと進路を異にした(実際この後,この方にお会いすることは無かった)。旅先の出会いはいつも記憶に深く残るものである。
その13へ続く。
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