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anachro-fukurou.hatenablog.com
象潟の景勝地「九十九島」から象潟海水浴場まで歩き,日没後,完全に夜の帳の下りるまで,海を眺めて過ごそうと決めた。
軽鴨,海へ行く。
刹那の太陽光が、風に吹き散らされた暗雲を破り,その下で海は黒ずむ。重厚な色彩だ。
日本海は素直である。従順に,空を己に映す。
空より明るい海面。不思議な質感だが,偽りの無い色彩だ。
太陽が隠れ、橙の空が消えた頃,象潟海水浴場に着いた。
恐らくは日没時刻を過ぎたのだろう。鳥海山方向が見えている事になろうか。既に帳は東から下り始めている。夕風が生温い。
寂寞。ぽつりぽつりと灯る明りが,却って物悲しさを増す。
沈んでゆく。今日もまた,終わってゆく。
黙考。
自分も,この被写体と同じように,ここで孤独を甘んじて受け入れ,満喫している。
細砂の浜を歩く感覚というのは,不思議と忘れないものだ。土踏まずのあたりから靴の中に入り込んでくる砂,一歩進むたびに埋もれる靴底 ,次第に重くなる靴。
そして歩くのをやめ,流木に腰掛けた。
いよいよ,青灰色に包まれ,宵闇が迫って来る。
背後遠くに人の気配。私を見て,訝しく思ったに違いない。
視覚が次第に奪われてゆくと,次第に意識は波音へと向かう。
心がすーっと,低く平たく,ちょうど水平線のようなイメージで,落ち着いてゆく。
斃死した流木達。
ここでタイムリミットとなり,海に別れを告げ,象潟駅へと戻ったのだった。
この後,仁賀保駅まで移動して夕食。一人で入る地方の居酒屋というのはいつも面白いが,この日は仁賀保駅前で飛良泉を飲んだことが特に印象的な記憶として残っている。
店を後にして,臨時のあけぼの号上り列車をバルブ撮影し,翌朝の下り列車の撮影に向け,宿を取った西目駅まで更に一駅北上した。駅前は驚くほど暗く,携帯のライトで足元を照らしながら、既に寝静まった雰囲気の伊庭旅館に到着し,クラシカルな客室で静かに眠りに就いたのだった。